忍道の理念
みなさんは忍者や忍術と聞いた時、どんなものを思い浮かべますか。暗闇で戦う忍者や、敵を攻撃する忍術を思い浮かべるのではないでしょうか。忍者・忍術のイメージの多くは、創作作品に影響を受けた誤解の中にあります。
忍術の極意、それは「和」です。その和を実現するために必要なこと、それが忍耐の「忍」となります。
世界に活躍の場が拓けた現代、私達は文化・言語・思想などの違いなどから時に争いを生じさせてしまいます。この争いが起こる所以は、何事もお互いに我慢ができないことから発生するものです。「忍」の精神を身に着けていれば、お互いに少しずつ耐え忍ぶことで、結果的には皆が仲良くすることができます。
各人が身につけることで世界に平和をもたらすもの。これこそが忍びの道「忍道」であると考えています。
忍道の理念は、「忍」を以て「和」を成すこと。争いの絶えない現代にこそ、忍びの精神が必要なのです。
忍術の歴史
忍術の起源は、日本独特の風土や精神性と深く関係しています。
太古の日本人が狩猟を中心とした生活から農耕定住生活へと移り変わっていく中で、同じ土地で共同して暮らしていくためのムラ社会が形成されていきました。その中では、当然自分が思っていることを我慢し、皆と協調することが必然となっていきます。
さらに、四季の変化や自然災害の過酷な環境の中で、常に周囲に目を配り、思案を巡らせることで、物事に臨機応変に対応することが求められました。その一方で、人間には争う本能もあるため、近接するムラとムラとの間には様々な戦いがありました。
その際に、なるべく互いに傷つかず、自分が優位に立つためには何が必要なのか。それは、相手の弱点などを探る情報収集能力など、最小限の力で相手を制する知恵や技術でした。
その昔、伊賀や甲賀に代表される忍者の集落では、自分たちを守る大名もおらず自存自栄を余儀なくされます。これが理由で発達したのが伊賀・甲賀の忍術であり、日本人の根幹を成すものだったのです。
こうして和を貴ぶ精神性や争いを避けムラの平和を維持する知恵が、日本人に蓄積されていき「総合生存技術」にまで高められたのが「忍術」であります。
「忍道」が目指すもの
忍術の本質は、争わず、調和して生きていくために己を知り、相手を知り、そして「機を捉まえて間隙を衝く」ことにあります。そのためには弛まぬ自己鍛錬、何があっても動じない忍耐が必要です。互いに忍の心があれば、何事にも和が生まれます。「忍道」では、その「忍耐力」や「人の心の捉え方」などを忍術から学んでいきます。現代社会においても、学校や会社などのコミュニティで生じてしまう摩擦への対応方法として、「忍道」で学んだことが活かせるものとなることを目指しています。
忍道のカリキュラムは、江戸時代までに大成された忍びの者の先人たちが残した忍術書に基づき構築しています。なお、忍道においては「武術」を扱いません。忍術=武術と捉えられがちですが、忍者にとって武術は嗜まねばならない必須のものではあるものの、忍術とは明確に違うものであり、「忍道」においてはあくまで忍術の技術および精神を修練していきます。昇段審査において武術の嗜みがあるかは審査対象としますが、各人が好きな武術を各地の武術道場で学んでいただくことを考えております。なお、「忍道」において日本忍者協議会は忍術のカリキュラムについて保証するものであり、各道場における武術その他の技法や伝法には一切関与しませんのでご了承ください。(忍道の師範忍が運営する道場においても同様です)
これからも、忍術を通じて日本人に受け継がれてきた心を守り伝え、「忍道」を通じて海外の方々にも知っていただくことで、一人でも多くの方の心の平安、世界の平和に貢献できればと願っています。
「忍道」監修陣 日本忍者協議会顧問
【「忍道」総合・陰忍コース監修】
甲賀伴党二十一代目宗師家 川上仁一
【「忍道」陽忍コース監修】
三重大学人文学部教授 山田雄司